日本における音声ガイドの現状と
ダンス解説の実践から

  • 日時、2017年はちがつむいか。にちようび。13:00から16:00
  • 会場、きゅうなさかすたじお
  • 講師、ひらつかちほこ、たなかきょうこ

今ではユーディーキャストというアプリも開発され、普及が進んでいる映画のガイド。しかしひらつかちほこさんがシティライツという団体を立ち上げた17年前は、当事者も見たいけれども諦めていた実態を知り、映画音声ガイドの研究から活動を始めた。

ワークショップは、まずはある映画の冒頭のシーンを例に、音声ガイドで映画を見るということがどういうことか体験することから始まった。音声ガイドなしで映画の音だけを聞く、次に音声ガイドつきで聞く、そして映像を見ながら音声ガイドを聞く。音だけだと雨が降っていることくらいしかわからなかった情景が、音声ガイドが入ることで、親子が車に乗っていること、泣いているお母さんを気遣う娘という心情も垣間見えてくる。

台詞の隙間の、映画そのものから得られる音や台詞の邪魔にならないタイミングで視覚情報を補う映画の音声ガイド。音声ガイドは視覚情報の中でも「テロップなどの文字情報」「場面転換での時、場所」「情景、人物描写のご、ダブリュー、いち、エイチ」「指示語で示しているもの」の説明に分けることができる。しかし目に入る膨大な視覚情報をどうガイドにするのか。まだ未熟な分野でひとつのマニュアルがあるわけではないという前置きをしながら、普段携わっている音声ガイド制作の手法を共有してくれた。

映画の音声ガイド制作のポイント

  • 台詞にかぶせない
  • 音でわかる情報は音声ガイドで説明しない。「みーん、みーん」という映像の音に、セミが鳴いている、という音声ガイドをつけない。
  • 台詞の隙間の長さに応じて文章の組み立て方や修飾の仕方を工夫する
  • すべてのまを言葉で埋めるのではなく、作品に応じて変える。サスペンスはまで緊張感を持たせるなど。
  • 耳で聞いてわかりやすい、耳馴染みのよい言葉を使っていく
  • 思考が止まらないように長すぎる文章は避ける(先に骨子→修飾を足す)
  • 思考が止まらないように長すぎる文章は避ける。先に骨子を伝え、修飾を足す。
  • 鑑賞者がそれぞれ感想を持てるよう、書き手の感想を押し付けないこと(「怒っている」というのではなく、そう思わせるヒントになる視覚的な情報を説明する。「眉を吊り上げている」「拳を握っている」など)
  • 見ている人と同じタイミングで感情移入できることを目指す(見た瞬間笑いが起こるような場合は、音声ガイドをワンテンポ先に説明して、見ている人と一緒に笑えるよう配慮する)

この日は映画の音声ガイドのモニターで幼い頃に視覚を失った田中正子さんも同席。音声ガイドはモニターによるチェックを経てつくられる。それは、見えない人にとってわかりやすい説明をつくるためだが、チェックを受けるたびに、彼らが頭の中で映像を再構築し、映画の中の世界に自由に入っていくような感覚に触れることがあると平塚さんは言う。見えているとフレームの中の説明をしがちだが、それは視覚によってとても小さな世界で物事を想像しているのではないかと思わされると話していたことが印象に残った。

次にレクチャーを行っていただいたのは、鳥取県で舞台芸術の音声ガイドに取り組んできた田中京子さん。シティライツで学んだ映画の音声ガイドと舞台芸術との違いについて、さまざまな観点から実例を交えながら話が展開された。鑑賞マナーや音響設備の違い、映画のようにカット割りがない舞台を説明するときに気をつけるべきこと、制作スタッフとコミュニケーションをとる重要さなど、ひとりで音声ガイド制作とライブでのナレーションを果敢に進めてきた京子さんならではの苦労話や工夫が、情熱を持って語られた。

「会場との一体感がとにかく重要」と語る京子さんは、舞台の音声ガイドを遊園地のライド系アトラクションに例えた。ホールに入ることは乗り物に乗ること。ゆっくり発車して、はじめの坂を上がる時が事前解説。少しずつこれから起こる体験を期待させ、坂を上りきる前にサイレン(1ベル)が鳴る。そしていよいよ天辺まで来たら、本ベルが鳴る。幕があいたら坂を猛スピードでおり始め、景色を眺めるまはない。でもとにかくこのツアーを体感させること。時には緩やかなコーナーで景色を見るようにじっくり空間を想像させられるような解説もあるが、基本はついていけることが大切。そして、下車したら客席や会場の様子を説明して、「怖かったね、すごかったね」と他の人たちと共有できるようにすること。

最後は、課題のダンス映像に音声ガイドをつけるエクササイズ。参加者のひとりがダンスのリズムを「トン、トン、トン」と、「トン。トン。トン。」と速さの違いで説明する様子に、一同感心する場面も。映画とダンスの音声ガイドの違いに、はじめは戸惑う様子を見せたモニターの正子さんも、課題の発表を聞くなかで「体が動くような感覚が味わえて、ダンスの音声ガイドもありかなと思いました」とコメント。「自分はそのダンスの何を伝えたいか、それだけ考えて話せば、必ず伝わる音声ガイドがつくれるようになる」という京子さんの言葉に勇気づけられたワークショップだった。

講師プロフィール

ひらつかちほこプロフィール。早稲田大学教育学部教育学科卒業後、飲食店や映画館に勤務。にせんいちねんにバリアフリー映画鑑賞推進団体シティライツを設立し、映画館「早稲田松竹」を退職。以後、視覚障害者の映画鑑賞環境づくりに従事。にせんさんねん第さんじゅうなな回NHK障害福祉賞優秀賞受賞。にせんじゅうろくねんくがつ日本初のユニバーサルシアター シネマチュプキタバタ設立。その功績が讃えられ、第にじゅうよん回ヘレンケラー、サリバン賞を受賞。
たなかきょうこ。鳥取県を拠点に障害者の鑑賞サポートに従事。2007年より映画の音声ガイド制作に携わる。2013年ユニバーサル鑑賞推進団体リーディングアクトを団体化し、音声ガイド制作、実施のための勉強会を主宰。2014年「全国障がい者芸術文化祭、とっとり大会」の音声ガイドを生放送で担当。「ビッグアイアートフェスティバル2016」ではストリートダンスなど多彩なパフォーマンスの解説を行った。